遺贈や死因贈与をすると指定されていた財産は、遺産分割の対象になるのか?遺留分の請 求可否についても解説
遺言書の中に「この土地を A さんに遺贈する」と書かれていたり、生前に「私が死んだら、
この預金をあなたに贈る」という約束があったりした場合、その財産は遺産分割協議の対
象になるのでしょうか。また、遺留分を侵害されたと感じる相続人は、遺贈や死因贈与に
対しても遺留分侵害額請求ができるのでしょうか。
これらの問いに対する答えを知らないまま手続を進めた場合は思わぬ手続きミスや権利の
喪失につながってしまう場合もあります。
この記事では、遺贈・死因贈与の基本から、遺産分割・遺留分との関係、実務上の注意点
まで、弁護士がわかりやすく解説します。
「遺贈」「死因贈与」とは
1. 遺贈
遺贈とは、遺言者が遺言によって行う財産の処分のことです。遺贈は相続人に対しても行
うことができますが、実務上、相続人には、遺贈ではなく「相続させる」旨の遺言が行わ
れているため、遺贈は主に相続人以外の第三者(友人、内縁のパートナー、社会福祉法人
など)に対して財産を渡す場面で使われます。
遺贈を受ける人を受遺者と呼びます。受遺者は遺贈を放棄することもでき、無理に財産を
引き受ける義務はありません。
遺贈には、大きく分けて特定遺贈と包括遺贈の 2 種類があります。
特定遺贈
特定遺贈とは、「甲土地を遺贈する」「○○銀行の定期預金を遺贈する」というように、遺
贈する財産を具体的に特定して行う遺贈のことです。
特定遺贈は、遺言者の死亡と同時に効力が生じ、指定された特定の財産の所有権が受遺者
に移転します。財産が具体的に指定されているため、遺産分割協議を経ることなく、受遺
者が直接名義変更などの手続きを行うことができます。
包括遺贈
包括遺贈とは、「遺産の 2 分の 1 を遺贈する」というように、遺産の全部またはその割合を
指定するにとどまり、目的物を特定しないで行う遺贈のことです。
遺産全体の中から「どの財産が自分の取り分にあたるか」は、包括遺贈の段階では確定し
ていません。そのため、包括受遺者(包括遺贈を受けた人)は相続人と同一の権利義務を
有するものとされており(民法第 990 条)、その後の遺産分割において相続人と同じ立場で
協議に参加する必要があります。
死因贈与
死因贈与とは、贈与者(財産を渡す側)と受贈者(財産を受け取る側)が、「贈与者が死亡
した時点で、事前に指定した財産を受贈者に贈与する」という条件付きの生前の契約(合
意)です。
遺贈が被相続人の「一方的な意思表示(遺言)」によって成立するのに対し、死因贈与は当
事者双方の合意によって成立します。これが両者の最大の違いです。
民法第 554 条は「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しな
い限り、遺贈に関する規定を準用する」と定めており、死因贈与は多くの点で遺贈と同様
に扱われます。
また、死因贈与によって財産が移転する際の税金は、贈与税ではなく相続税が課税されま
す。この点も遺贈と同様です。
遺贈や死因贈与が遺産分割の対象となる場合
特定遺贈と死因贈与の対象財産は、原則として遺産分割協議の対象外となります。これら
は被相続人の死亡と同時に所有権が受遺者・受贈者に移転するため、遺産として残る財産
に含まれないからです。受遺者・受贈者は、遺産分割協議の成立を待たずに名義変更や処
分を行うことができます。
一部の割合を包括遺贈された受遺者がいる場合
これに対し、包括遺贈では、遺産の割合だけが指定されており、具体的にどの財産を誰が
取得するかは確定しておらず、包括受遺者は法律上、相続人と同一の権利義務を持ちます。
そのため、相続人や包括受遺者が複数いる場合は、相続人等間での遺産分割協議が必要と
なります。
具体的には、「遺産の 3 分の 1 を A に包括遺贈する」という遺言があった場合、相続人と
受遺者 A の間で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するかを具体的に決める必要が
あるわけです。
この場合、包括受遺者は遺産分割協議に参加する義務があり、相続人との間で合意が成立
しない場合には、家庭裁判所における遺産分割調停・審判の手続きに移行することになり
ます。
なお、「遺産の全部を A に包括遺贈する」という場合は、法定相続人が1人であるケース
と同様に、A がすべての財産を取得するため遺産分割協議は不要です。
遺贈や死因贈与は遺留分侵害額請求の対象となるか
遺贈も死因贈与も、遺留分侵害額請求の対象となります。
遺留分とは、法律によって一定の相続人(配偶者・子・直系尊属)に保障された最低限の
相続分であり、遺言や生前の財産処分によっても侵害することができない権利です。遺留
分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った者に対し、侵害された遺留分相当額を金
銭で支払うよう請求することができます。これを遺留分侵害額請求といいます。
遺贈については、遺贈の種類(特定遺贈・包括遺贈)を問わず、遺留分を侵害する内容で
あれば請求の対象となります。
死因贈与については、民法上に明文の規定はありませんが、死因贈与が遺贈の規定を準用
することや(民法第 554 条)、その経済的実質が遺贈と同様であることから、遺留分侵害額
請求の対象となると解されています。死因贈与だからといって遺留分侵害の問題を免れる
わけではありません。
iv. 遺贈や死因贈与に対して遺留分侵害額請求を行う場合の順序と注意点
遺留分侵害額請求を行う際には、その順序と時効について特に注意が必要です。
原則として遺贈の受遺者に先に請求を行う
被相続人が遺言による遺贈と、生前の贈与(特別受益となる贈与・死因贈与など)の両方
を行っていた場合、遺留分侵害額請求はどの相手に対して、どの順で行えばよいのでしょ
うか。
民法第 1047 条により、遺留分侵害額請求を行う際の順序は次のとおり定められています。
まず、遺贈と贈与がある場合は、遺贈が先に遺留分侵害額請求の対象となり、受遺者が遺
留分侵害額を負担します。
なお、遺留分侵害額請求を行う際の順序との関係で、死因贈与は遺贈であるのか、贈与で
あるのかについては、民法上明文はなく、見解の対立があるところですが、裁判上は死因
贈与は贈与として取り扱われるケースが多い状況です(東京高裁平成 12 年 3 月 8 日判決な
ど)。
受遺者が複数いる場合には、それぞれの遺贈の価額の割合に応じて、按分して請求するこ
とになります。
次に、遺贈だけでは遺留分侵害額を賄えない場合に、受贈者に対して請求します。受贈者
の中では、まずは死因贈与が請求対象となり、次いで生前贈与が対象となります。生前贈
与が複数ある場合には、新しい贈与から遡って請求する順番になります(新しい贈与ほど
先に対象となる)。
なお、2019 年 7 月 1 日の民法改正により、遺留分侵害額請求は現物(不動産の持分など)
ではなく金銭による支払いが原則となっています(民法 1046 条 1 項)。そのため、遺産が
不動産しかない場合でも、遺留分は現物での引き渡しではなく金銭で請求することとなr
ます。
ただし、受遺者・受贈者が金銭の支払いに代えて不動産の持分移転を提案し、遺留分権利
者がそれを了承する場合には、不動産での代物弁済として処理することも考えられます。
時効に注意する必要がある
遺留分侵害額請求には、時効があります。この時効を過ぎると、たとえ遺留分を侵害され
ていても請求権を行使できなくなるため、特に注意が必要です。
具体的には、遺留分侵害額請求については、相続の開始(被相続人の死亡)および遺留分
を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から 1 年以内に請求しなければなりません
(民法 1048 条)。
なお、仮に相続の開始や遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知らなかった場合で
あっても、、相続開始の時から 10 年が経過した場合には、遺留分侵害額請求権は消滅して
しまいます。
いずれにしても、遺言書や遺贈・死因贈与の契約内容を把握したら、速やかに弁護士へ相
談することが重要です。
相続に関して弁護士に相談するメリット
遺贈・死因贈与・遺留分が絡む相続問題は、法律関係が複雑に入り組んでいます。専門知
識なしに対応しようとすると、手続きの誤りや権利の喪失につながるリスクがあります。
弁護士に相談することには、具体的に次のメリットがあります。
自分の遺留分を正確に算定できます。
遺留分の計算は、相続財産の評価額・生前贈与の持ち戻し・特別受益の考慮など、複数の
要素を組み合わせた複雑な計算が必要です。弁護士が正確に算定することで、過少な請求
(損をする)も過大な請求(トラブルを招く)も避けることができます。
時効前に迅速に対応できます。
遺留分侵害額請求の 1 年という時効は、遺留分侵害の事実を把握したからカウントが始ま
ります。遺言書や遺贈・死因贈与の事実を知ったタイミングで速やかに弁護士に相談する
ことで、時効の消滅を防ぐための内容証明郵便の送付や、適切な請求手続きを迅速に進め
ることができます。
包括受遺者との遺産分割協議を適切に進められます。
包括遺贈がある場合、相続人と包括受遺者の間で遺産分割協議を行う必要があります。法
的立場が複雑な相手との協議は、弁護士が代理人として関与することで、スムーズかつ適
切に進めることができます。
受遺者・受贈者側のサポートも可能です。
遺留分侵害額請求を受けた受遺者・受贈者の側にも、弁護士のサポートが必要です。請求
額の根拠を精査し、不当に高い請求に対して法的に反論するほか、支払い方法(分割払
い・代物弁済など)の交渉も行います。
調停・訴訟まで一貫した対応ができます。
当事者間の交渉でまとまらない場合、家庭裁判所での調停や地方裁判所での訴訟(遺留分
侵害額請求訴訟)に移行します。同じ弁護士が交渉から法的手続きまで一貫して担当する
ことで、主張の一貫性と迅速な対応が確保されます。
当事務所のサポート内容
当事務所では、遺贈・死因贈与・遺留分侵害額請求権に関する分野を含む相続手続全般に
ついて豊富な取扱実績があります。
包括遺贈者がいるため遺産分割協議を検討したい、遺留分を侵害する遺贈や死因贈与があ
るので遺留分侵害額請求をしたい、遺贈や死因贈与を受けたところ相続人から遺留分侵害
額請求を受けて対応に困っている、など様々なご相談について、ご相談者様の置かれた状
況を的確に分析した上、ご相談者様のご意向も十分にヒアリングし、最適な手続方針をご
提案申し上げます。
このようなお悩みがある場合、是非お気軽にご相談ください。

千葉県千葉市出身
平成11年 千葉市立稲毛高等学校卒業
平成15年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成16年 司法試験合格
平成17年 最高裁判所司法修習生採用(第59期、大津修習)
平成18年 弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉県市川市の弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所
平成23年 法律事務所羅針盤開設に参加
平成29年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻(税法コース)修了
平成29年12月
~令和元年11月 総務省官民競争入札等監理委員会事務局政策調査官、同省公共サービス改革推進室政策調査官(併任)


