遺産分割で連絡を無視・拒否する相続人がいる場合の対応策と弁護士に依頼するメリット
1.連絡を無視・拒否する相続人がいると遺産分割ができない理由
文責:弁護士 本田真郷
遺産分割協議は、被相続人の残した財産をどのように分けるかについて、相続人全員が協議をして決める手続です。遺産分割協議は相続人全員の同意が得られない限り成立しないため、たった一人でも連絡を拒否したり、話し合いを意図的に無視したりする相続人がいると、遺産分割協議の成立は不可能となります。
協議が成立しないことで、他の相続人全員が以下のような大きな不利益を被り、生活や財産管理に深刻な影響が生じます。
①金融資産の凍結
預貯金や株式などの金融資産は、原則として相続人全員の署名・捺印がなければ、銀行から引き出すことができません。葬儀費用や当面の生活費など、急な出費にも対応できず、資金が凍結された状態が長期間続くことになります。
②不動産の処分不能
実家などの不動産の名義を相続人の一人に変更する相続登記ができず、売却や担保設定による活用もできなくなります。固定資産税の負担や建物の管理コストも相続人全員が負わなければならない状況が続いてしまいます。
③手続きの長期化によるリスク増大
相続手続きが長期化すればするほど、次の相続(二次相続)が発生し、相続人の数がさらに増え、権利関係が複雑化するリスクも高まります。
なお、①の金融資産の凍結については、例外的な救済制度として、遺産分割前の預貯金の払戻し制度が利用可能です。生活費や葬儀費用など、当面の資金が必要な場合は、他の相続人の合意がなくても、一定額まで引き出すことが可能ですので、必要に応じて検討しましょう。
2.連絡を無視・拒否する相続人がいる理由
相続人が遺産分割協議への参加を拒否したり、連絡を無視する場合のパターンは以下のとおりです。
(1)感情的な対立がある場合
最もありがちなのは、被相続人の生前の介護や特定の相続人の過去の言動等に起因して、相続人間に根深い感情的対立が生じている場合です。「あの人とは一切話したくない」という感情的な拒絶が、協議への参加を物理的に妨げます。
(2)相続手続への理解不十分
相続手続に関する知識が乏しく、「自分は余り関心がないから、そちらで適当に話を進めてくれればいい」と安易に考え、単に連絡を無視しているケースです。特に親戚関係が希薄な親族同士が相続人となっている場合に多い傾向があります。
(3)不当な主張の交渉手段
連絡を拒否することで、他の相続人を焦らせ、「自分の不当な要求(多すぎる取り分など)を呑ませよう」とする一種の交渉手段として利用しているケースも中にはあります。
3.非協力的な相続人と連絡をとる方法
非協力的な相続人と連絡をとる方法は以下のとおりです。
①他の親族に間を取り持ってもらう
親族内に顔役の親族がいる場合などは、その親族に間を取り持ってもらうことによって、相続人間の話し合いが上手く進む場合もあります。
もしそのような親族がいる場合は相談してみると良いでしょう。
②手紙を送ってみる
会話では感情的になってしまう場合でも、なぜ相続人間の話し合いが必要であるのかを手紙などの文書で連絡することにより、冷静な遺産分割協議ができる場合もあります。
③弁護士に依頼して連絡する
弁護士に依頼し、弁護士名義で遺産分割協議への参加を求める通知書を送付します。
これより本人同士の感情的問題に発展することを避けながら、重要な法律問題であることの認識してもらい、遺産分割協議への参加を促します。
いずれにしても、非協力的な相続人がいる場合に、無理やり遺産分割協議を進めようとすると、小さな掛け違いから深刻な相続トラブルに発展してしまうこともあります。
このような場合は、単なる連絡の掛け違いであるのか、深刻な対立関係があるのかを、冷静かつ適切に見極め、状況に応じたコミュニケーションを図っていくことが需要です。
円滑な相続手続の進行が難しいと感じた場合は、早めに法律専門家にご相談されることをお勧めします。
4.どうしても連絡がとれない相続人がいるときの対処法
連絡を試みても全く連絡がとれない相続人がいる場合、以下の法的手続を検討することとなります。
(1)遺産分割調停・審判の申立て
連絡を無視・拒否する相続人がいる場合でも、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
調停手続きが始まると、裁判所から非協力的な相続人へ調停出席を求める呼出状が送付され、相続人間の直接連絡では全く連絡がつかなかった相続人も裁判所には出頭してくるといったケースもあります。
また調停手続は、調停委員という中立な第三者が間に入り、話し合いを取り持ってくれるため、相続人間に感情的な対立がある場合でも、冷静に解決へと向かうことができます。
もし調停でも合意に至らない場合は、原則として自動的に遺産分割審判に移行します。審判では、裁判官が提出された証拠に基づき、最終的な遺産分割方法を決定し、強制力のある遺産分割審判を下します。非協力的な相続人がいたとしても、遺産分割審判の効力は及ぶため、強制的に遺産分割を実現することができます。
(2)行方不明の相続人がいる場合:失踪宣告または不在者財産管理人の選任
相続人の中に、単なる連絡拒否ではなく、所在や生死が不明な行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人の選任や失踪宣告などの手続が必要となる場合があります。
① 不在者財産管理人の選任を申し立てる
行方不明者がいる場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます。選任された財産管理人は、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議や調停に参加することができ、これにより遺産分割手続を進めることができます。
②失踪宣告を申し立てる
行方不明になってから7年以上経過している場合は、失踪宣告を申し立てることができます。これが認められると、法律上死亡したものとみなされ、その人を除外して遺産分割を行うことができます。ただし、当該行方不明者の相続も発生することになるため、相続関係に変動が生じ、思わぬ効果が生じる場合もあるので、申立ては慎重に行う必要があります。
5.相続のトラブルの予防には「遺言書の作成」が有効
「連絡を無視する相続人」が現れるなどの相続トラブルを未然に防止するには、公正証書遺言の作成が最も確実な予防策となります。
遺言書を作成し、「誰にどの財産を、どの割合で相続させるか」を明確に指定しておけば、原則として遺産分割協議を経ることなく、遺言の通りに名義変更や預貯金の払い戻しが可能です。遺産分割協議の必要がないため、連絡がとれない相続人がいたとしても、相続手続上は大きな問題にならないことが通常です。
6.当事務所のサポート内容
当事務所では、遺産分割を含む相続手続全般について、豊富な取り扱い実績があります。
連絡を無視・拒否する相続人がいる、などのご相談についても、全体の状況を的確に分析した上、ご相談者様が取るべき最適な手続方針をご提案申し上げますので、是非お気軽にご相談ください。

千葉県千葉市出身
平成11年 千葉市立稲毛高等学校卒業
平成15年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成16年 司法試験合格
平成17年 最高裁判所司法修習生採用(第59期、大津修習)
平成18年 弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉県市川市の弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所
平成23年 法律事務所羅針盤開設に参加
平成29年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻(税法コース)修了
平成29年12月
~令和元年11月 総務省官民競争入札等監理委員会事務局政策調査官、同省公共サービス改革推進室政策調査官(併任)


