遺留分を払えないときどうする?
市川市本八幡の法律事務所羅針盤の弁護士の本田です。
遺言により遺産の大半を相続した場合、本来遺産を貰う権利があったはずである他の相続人から「遺留分」を請求されることがあります。
遺産が現金であれば直ぐに払えますが、不動産など現金でない場合はすぐに支払う現金がないということも起こり得ます。
当事務所にも、そのような相談が寄せられることが少なくありません。
この記事では、遺留分相当額の金銭を払えないときの対策について弁護士が詳しく解説します。
遺留分とは
まず、遺留分とはなにか?ということですが、
一定範囲の相続人(配偶者やその子供など)に認められている、最低限度の遺産の取り分のことを言います。
遺留分が認められる相続人は以下の通りです。
・配偶者
・子ども(代襲相続人を含む)
・直系尊属(父母・祖父母など)
遺留分の割合は、配偶者と子どもが法定相続分の2分の1、相続人が直系尊属のみ(父母・祖父母など)の場合は法定相続分の3分の1と定められています。
なお、被相続人の兄弟姉妹については遺留分は認められていません。
遺留分が侵害されたときに、遺産を受け取った人に遺留分相当の金銭を請求する権利のことを「遺留分侵害額請求権」と言います。
遺留分を払う法的背景
特定の親族に最低限の遺産取得割合が認められている理由は以下の通りです。
被相続人は、本来、自分の財産を自由に処分できるはずであり、相続関係に関わらず、生前贈与や遺言作成を通じて、特定の人に財産を譲ることができます。
しかし、被相続人の財産は相続人の生活保障の糧として活用されていた場合もありますし、被相続人の財産形成に相続人が何らかの貢献をしていたことも十分考えられます。
このような場合、被相続人の財産処分を被相続人の自由意思に完全に委ねてしまうことには不都合が生じることがあり得ます。
そこで、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護の両要請を調整するため、民法は、「被相続人は財産を自由に処分できる。ただし、相続人の最低限度の相続分すら侵害される場合は、相続人は権利行使を通じて最低限度の相続分を確保することができる」という制度を採用しました。
この制度が遺留分なのです。
遺留分には請求期限がある
遺留分の請求には1年、10年の2つの期間制限があります。
相続開始及び遺留分の侵害を知った日から1年
遺留分権利者は相続または遺留分の侵害を知った日から1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しないと時効を迎えます。
相続開始から10年で請求権は消滅
遺留分権利者が相続や遺留分侵害を知らなかったとしても、相続開始から10年経過すると除斥期間によって請求権は消滅します。
相続財産が不動産しかない場合
不動産を相続した場合、遺産分割には4つの方法があります。
・換価分割:不動産を売却したお金を相続人で分け合う
・現物分割:不動産を特定の相続人が相続するか、相続人で分筆する
・換価分割:不動産を売却したお金を相続人で分け合う
・共有:相続人の共有不動産にする
以上の通り不動産を相続した場合、遺産分割方法として現物分割や共有を選択することは可能です。
しかし、相続財産が不動産だったとしても遺留分の支払いは基本的に現金のみです。(民法1046条1項)
遺留分については、以前は相続した財産をそのまま返す「現物返還」が原則でした。しかし、不動産は共有状態になれば分割に制約が生じます。そこで、令和元年7月1日施行の改正民法により、遺留分の精算は基本的に現金のみに変更されました。
なお、現金払いの対象となるのは、令和元年7月1日以降に発生した相続に限ります。
遺留分を現金で払えないときの対処法
不動産など現金以外のものを相続した場合、遺留分が払えないこともあります。その場合の対処方法について詳しく解説します。
まずは、本当に相手に遺留分を請求する権利があるか確認する
遺留分侵害額請求ができるのは、配偶者、子ども(代襲相続人を含む)、父母・祖父母です。被相続人の兄弟姉妹に請求はありません。また、相続放棄している人や、相続欠格や相続排除で相続権をはく奪された人は、遺留分を請求する権利はありません。以上を念頭に、遺留分を請求された際は、最初に相手に請求権があるか確認します。
時効を確認する
遺留分の請求は相続開始及び遺留分の侵害を知った日から1年、相続開始から10年で時効を迎えます。時効が成立している場合、遺留分を支払う義務はありません。
減額や請求取り下げを打診する
遺留分侵害額請求が正当であることが判明したら、まずは話し合いで減額や請求取り下げを打診することもあり得ます。相続財産の大部分が金銭換価しにく財産(自宅不動産が典型)であった場合などは、まずは相続人に事情を説明して理解を得る方針を検討すべき場合もあるでしょう。このとき「支払いたくない」という姿勢では相手の納得は得られませんので、「支払えない」旨を丁寧に伝えて妥協点を探るのがベストです。遺産が不動産しかなく、現金での支払いが難しい場合は、分割や共有の提案も選択肢に入ります。話し合いがまとまったら、後日「言った言わない」の水掛け論にならないよう、必ず合意書を作成しましょう。
減額・請求取り下げを弁護士に相談する
減額や請求取り下げの話し合いがまとまらないときは、弁護士に相談しましょう。弁護士は減額や請求取り下げの余地があるか法律や裁判例などに基づいて判断できます。特に以下の2つのケースに当てはまる場合、減額・請求取り下げができる可能性があります。
・遺留分請求者が生前贈与を受けていた
・不動産の評価額が不適切
弁護士に相談すれば、最終的に話し合いがまとまらず、調停・訴訟に発展した場合もワンストップで対応できます。
直ぐに払えない場合は裁判所に「期限の許与」を求める
弁護士に「遺留分の減額・請求取り下げは難しい」と判断され、直ぐに遺留分を支払えないときは、裁判所に「期限の許与」を求めます。
期限の許与とは
遺留分侵害額請求されたとき、経済的な理由で遺留分の支払いができない場合に、裁判所が認めれば支払い期限を延長できる制度です。(民法1047条5項)
期限の許与を求める際は、遺留分権利者を相手方として裁判所へ提訴します。全額許与が認められるか、一部のみ認められるかは内容と裁判官の判断によります。遺留分権利者が既に訴訟を起こしている場合は、その裁判の中で期限の許与を認めてもらいましょう。
期限の許与が認められれば、指定期日までは遺留分の支払いが猶予されます。猶予期間中は不動産を担保に入れて借り入れするなど、遺留分支払いの準備を進めます。
期限の許与が認められない場合は不動産を売却する
相続財産が不動産しかなく、遺留分を支払う現金もなく、期限の許与も認められなかった場合は、不動産を売却し現金化して遺留分の支払いに充てることになります。
しかし、不動産売却はあくまでも最終手段です。この段階に至る前に話し合いや、弁護士への相談など、できることがあれば全力で取り組みましょう。
遺留分の請求を無視した場合のリスク
遺留分を支払えないときに、請求を無視し続けるのは危険です。
考えられるリスクは以下の2つです。
調停・訴訟を提起される可能性
遺留分の請求を無視し続けると、遺留分権利者から「遺留分侵害額調停」を起こされる可能性があります。調停委員の下での話し合いで合意が見いだせない場合は、訴訟へ移行します。
財産差し押さえの可能性
遺留分侵害額請求の訴訟で判決が確定したにも拘わらず、遺留分侵害額請求を無視し続けると、不動産や預金・車などの財産が差し押さえられる可能性があります。差し押さえられた財産は、相手が裁判に勝訴すれば競売に掛けられ、その代金は遺留分に充てられます。
遺留分の請求を無視することはリスクがあるため、放置していれば時効になるだろうという考えは厳禁です。相手から請求があった場合は速やかに対処しなければなりません。
遺留分を請求された際に弁護士に相談するメリット
遺留分を請求されたら、できるだけ円満に話し合いで解決できればベストです。
しかし、不動産の評価額の判断など、遺留分の計算方法は複雑で、相手の請求が正当であるかどうかを確かめるためには専門的な知識も必要になります。また、話し合いがまとまらず調停や訴訟に移行した場合、相当の時間と労力を割かなければなりません。これらを個人で行うのは非常に困難です。
遺留分に関する問題を円滑に解決するには、請求された時点で速やかに弁護士に相談してください。
弁護士に依頼すると次の2つのメリットがあります。
・遺留分請求者への対応を任せられる
遺産を巡る当事者同士の話し合いは感情的な言い合いに終わることもあります。その点、弁護士に依頼すれば、遺留分を正確に算出し、法的根拠を持って相手に説明できます。専門家が入ることで相手の納得も得られやすくなり、問題解決がしやすくなります。
・調停や訴訟に移行してもサポートを受けられる
遺留分権利者との話し合いがまとまらず、調停や訴訟に移行してもそのまま弁護士のサポートを受けられるので安心です。
遺留分を請求されてお困りの場合はお気軽に弁護士にご相談ください。
ご要望を丁寧にお伺いした上で、最善の解決策をご提案させて頂きます。
千葉県千葉市出身
平成11年 千葉市立稲毛高等学校卒業
平成15年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成16年 司法試験合格
平成17年 最高裁判所司法修習生採用(第59期、大津修習)
平成18年 弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉県市川市の弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所
平成23年 法律事務所羅針盤開設に参加
平成29年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻(税法コース)修了
平成29年12月
~令和元年11月 総務省官民競争入札等監理委員会事務局政策調査官、同省公共サービス改革推進室政策調査官(併任)