認知症対策としての家族信託の基本

1.家族信託とは
家族信託とは、親族内で信託契約を結んだ上、財産の管理を任せる仕組みです。
家族信託を設定することにより、財産の所有者(親など)は、財産を所有したまま、その管理・処分等を受託者となる親族に任せることが可能となります。
家族信託には、以下の当事者が登場します。
①委託者 財産を信託する人です。
②受託者 財産の管理・処分等を行う人です。
③受益者 財産管理によって発生する利益を受ける人です。
家族信託を設定した場合は、委託者である親が子を受託者として、財産管理を委ね、親の生前は親自身を受益者として、その利益(不動産収益や株式配当金など)を受けつつ、相続発生後は配偶者、子、孫などを受益者として、利益を取得させるなどの仕組みを作ることが可能となります。
2.認知症対策としての家族信託
家族信託を設定していた場合、認知症などにより委託者の判断能力が低下してしまった場合であっても、信託契約に反映されている委託者の意向を最大限に反映させながら、受託者が財産を適切に管理してくれることを期待することができます。
また、財産の処分についても受託者の判断で行うことができるため、例えば、委託者である親が老人ホーム等の施設に入所し、空き家になった自宅不動産を受託者の判断で売却し、その売却代金を施設費用に充てるといったことも可能となります。
このように家族信託は認知症などにより委託者の判断能力が低下してしまった場合に、委託者自身や家族の財産や生活環境を守るための対策として活用することができます。
3.家族信託と成年後見制度との比較
認知症などにより判断能力が低下してしまった場合の財産管理の仕組みとしては、成年後見制度を利用する方法もあります。
成年後見制度を利用する場合は、認知症になってしまった本人(親など)の家族が家庭裁判所に対し、後見開始の申立てを行い、家庭裁判所が成年後見人を選任します。
家族信託の場合の受託者の権限は、十分判断能力があるうちに本人(委託者)との間で締結された信託契約に基づくものであるのに対し、成年後見人の権限は民法等の法律に直接基づくものとなります。
法律上、成年後見人は「成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」ものとされていますが、既に判断能力が低下してしまっている本人(成年被後見人)の意思を直接確認することは難しく、成年後見人の財産管理に際しては、必ずしも実際の本人(成年被後見人)の意向が反映されるとは限らないものとなります(実際には本人の意向自体が特定できない場合も多く生じます)。
また、特に自宅不動産の売却については、家族信託の場合は信託契約に定めることにより受託者が自身の判断において売却等の手続を行うことができますが、成年後見制度の場合は自宅不動産の売却には家庭裁判所の特別許可が必要とされており、成年後見人の判断で機動的に売却等の手続を行うことは容易ではありません(家庭裁判所の特別許可についても一般的には慎重な判断がなされることが多く、簡単には認められません)。
4.家族信託のメリット・デメリット
(1)家族信託のメリット
家族信託のメリットは以下のとおりです。
〇受託者の指定や管理方法について委託者の意向を最大限反映することができる。
家族信託は、信託契約により委託者が受託者に財産を信託することにより設定されるものであるため、誰を受託者として財産を信託するか、その管理・処分の方向性をどのように指定するかについては、委託者の意向を最大限反映させることが可能です。
〇相続対策として活用することもできる。
家族信託においては、委託者が亡くなった後の財産の受取人を指定しておくことも可能です。この財産の受取人の指定については、一次相続に限らず、二次以降の相続の際の受取人を指定することも可能であり、例えば、一次相続(自身の相続)の際は財産を配偶者に取得させ、二次相続(配偶者の相続)の際はその財産を子に取得させる、といった指定を行うことも可能です。
このように家族信託は相続対策として活用することもできます。
(2)家族信託のデメリット
他方、家族信託には以下のようなデメリットもあります。
〇身上監護権がない
委託者の身の回りの世話に関する法律行為(身上監護)を受託者に委託することはできず、例えば、老人ホーム等の施設入所契約に関する権限を受託者に与えることは家族信託ではできません。
この点は身上監護権まで有している成年後見人の権限とは異なります。
身上監護権の設定まで希望する場合は、任意後見制度等の他の制度も併用する必要があります。
〇受託者の負担が重い
受託者は委託者に代わって委託者の財産管理等を行う必要があり、その管理に際しては信託帳簿作成、毎年の報告書作成等の事務負担も生じます。
受託者として財産管理等を行うためには、委託者との間での強い信頼関係や受託者自身の能力適性等も求められることとなります。
5.家族信託に関して弁護士に相談するメリット
家族信託の設定は契約行為によるものですので、適切な信託契約を締結することが極めて重要です。
信託契約に法的な誤りがあったり、将来生じることが見込まれるトラブルへの対策が不十分であったりすると、信託契約の解釈を巡る紛争が生じてしまうリスクがあり、最悪の場合、信託契約が無効となってしまうケースも生じ得ます。
また相続対策として家族信託を活用する場合は遺留分侵害への配慮や対策等も必要となるなど、相続関係法の十分な理解も必要となります。
家族信託は柔軟な設定が可能となる分、その適切かつ効果的な設定には十分な法的知識や経験が必要となるため、法律専門家である弁護士にご相談いただくことがお勧めです。
当事務所でも相続関係分野の豊富な取扱い経験を踏まえて、総合的な観点から家族信託に関するご提案をさせていただくことが可能ですので、家族信託の設定をご検討される際はお気軽にご相談ください。

千葉県千葉市出身
平成11年 千葉市立稲毛高等学校卒業
平成15年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成16年 司法試験合格
平成17年 最高裁判所司法修習生採用(第59期、大津修習)
平成18年 弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉県市川市の弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所
平成23年 法律事務所羅針盤開設に参加
平成29年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻(税法コース)修了
平成29年12月
~令和元年11月 総務省官民競争入札等監理委員会事務局政策調査官、同省公共サービス改革推進室政策調査官(併任)