相続人が多数いる場合の遺産分割の進め方
相続が発生した際、相続人が数名であれば話し合いも比較的スムーズに進むことも多くあります。しかし、相続人が10名、20名、時には30名を超えるような「多人数相続」となると、状況は一変します。相続人が増えれば増えるほど、利害関係は複雑化し、全員の合意を得るというハードルは飛躍的に高まるからです。
多人数相続は、放置すればするほどネズミ算式に難易度が上がっていく性質を持っています。本コラムでは、相続専門の弁護士が、なぜ多人数相続が困難を極めるのか、その背景と解決のための具体的なステップを詳しく解説します。
1.多数の相続人がいると、なぜ遺産分割が難しくなるのか
遺産分割協議は、相続人全員による合意の成立が必要です。手続面では、遺産分割協議書には相続人全員の署名と実印による押印、そして印鑑登録証明書の添付が必須とされるのです。たった一人でも反対する、あるいは連絡がつかない相続人がいるだけで、手続きは完全にストップしてしまいます。
多数の相続人がいる場合に直面する主な困難は、以下の4点に集約されます。
① 利害関係の複雑化と意見の不一致
人数が増えれば、それぞれの生活環境、経済状況、被相続人(亡くなった方)に対する感情も千差万別です。「思い出の詰まった実家を残したい」と主張する人がいる一方で、「自分は遠方に住んでいるから現金で分配してほしい」と考える人もいます。人数に比例して意見のバリエーションが増えるため、全員が納得する着地点を見出すことのハードルも高くなります。
② 疎遠な親族・面識のない親族の存在
相続人が多数にのぼるケースでは、従兄弟や、さらにその子供など、生涯一度も会ったことがないような親族が法律上の相続人になっていることが多々あります。面識のない相手から突然「この遺産分割協議書に実印を押して欲しい」と連絡が来れば、誰しも警戒心や不信感を抱きます。この初期段階の心理的障壁が、交渉を著しく困難にします。
③ 手続き作業の膨大さと「数次相続」の恐怖
相続人が20名いれば、20通の印鑑証明書を集め、20名分が署名押印の手配を依頼して遺産分割協議書を作成しなければなりません。1通の遺産分割協議書に全員分の署名押印を求めるような場合には郵送のやり取りだけでも数ヶ月を要します(なお、実務的には相続人毎に個別の遺産分割協議書を作成し、これを集約して1個の遺産分割協議とする方法もあります)。そして最も恐ろしいのは、手続きの途中で高齢の相続人が亡くなることです。これにより「数次相続」が発生し、さらにその子供たちが相続人として加わることで、収拾がつかなくなります。
④ 不動産評価と分配の難しさ
主な遺産が不動産である場合、数十名で共有名義にすることは将来的な売却を事実上不可能としてしまうため、原則として避けるべきです。しかし、売却して現金を分ける「換価分割」を選択しようにも、売却価格や時期について全員の同意を得るには、膨大なコミュニケーションコストがかかります。
2.相続人が多数になる背景:なぜ「多人数相続」は起きるのか
もともとの家系が大家族である場合だけでなく、現代の相続において人数が膨れ上がるのには、明確な法理上の理由があります。
① 代襲相続の繰り返し
被相続人の子供が既に亡くなっている場合、その子供(孫)が権利を引き継ぎます。兄弟姉妹が相続人になるケースでは、兄弟が亡くなっていればその子供(甥・姪)が代襲相続します。このように、相続の世代が下がる、あるいは横に広がることで、相続人の数は幾何学的に増えていきます。
② 長期間の相続放置(数次相続)
これが最も深刻な原因です。10年、20年前の相続(例:祖父の遺産分割)を未完了のまま放置している間に、相続人であった父が亡くなり、その相続人がさらに加わる……。放置期間が長ければ長いほど、ネズミ算式に相続人が増え、現在では「相続人が誰なのか、どこに住んでいるのかさえ誰も把握できていない」という事態に発展します。
③ 認知症による「意思能力」の問題
相続人が多数になると、その中に高齢者が含まれる確率が高まります。もし相続人の一人が認知症などで判断能力を欠いている場合、法律上、有効な遺産分割協議ができません。その方のために成年後見人を選任する手続きが別途必要になり、解決までの時間とコストがさらに増大します。
3.多数の相続人がいる場合の遺産分割の進め方と注意点
多人数相続を解決するには、感情論を極力排し、戦略的かつ事務的に手続きを進める必要があります。
ステップ1:徹底した相続人調査と相続関係図の作成
まずは「被相続人の相続人は誰なのか」を確定させることが出発点です。被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を遡って収集し、代襲相続人や数次相続人を一人残らず洗い出します。万一、1人でも相続人を漏らしてしまった状態で遺産分割協議を進めてしまうと、せっかく進めた協議が全て無意味となってしまうため、相続人の確定作業は絶対に間違いのないよう丁寧かつ緻密に行う必要があります。
ステップ2:情報の透明性を担保した「財産目録」の提示
人数が多い場合、特定の相続人だけが情報を握っていると、他の相続人は「隠し財産があるのではないか」と疑心暗鬼になります。すべてのプラス財産とマイナス財産、そして場合によっては不動産の査定書なども網羅した、情報量に過不足のない財産目録を正確に作成し、情報の透明性を確保することが合意形成の前提となります。
ステップ3:書面による「意向調査」の実施
いきなり電話をかけたり訪問したりするのではなく、まずは丁寧な書面で「相続が発生した事実」と「遺産の概要」を伝え、適切な質問事項を設定することにより、各相続人の意向を確認します。これにより、協力的なグループ、現金化を希望するグループ、連絡がつかないグループを色分けし、個別対応の戦略を練ります。
ステップ4:換価分割を軸にした合意形成
多人数相続において不動産を残すことは、次世代にさらなるトラブルを引き継ぐことになります。基本的には、不動産を売却して金銭化し、換価代金を法定相続分に応じて分ける換価分割が最も公平感を保ちやすく、多人数でも納得を得やすい解決策と言えます。
4.多数の相続人がいる場合に弁護士に相談するメリット
多人数相続を一般の方が自力で解決しようとすると、親族間のしがらみに翻弄され、心身ともに疲弊してしまいます。弁護士に依頼することで、以下の圧倒的なメリットが得られます。
(1)窓口の「第三者化」による感情対立の抑止
弁護士が窓口となることで、疎遠な親族も「特定の誰かの利益のためではなく、法的な解決のため」と理解し、冷静に話を聞くようになります。親族間で直接やり取りして感情を害するリスクの低減を図ることができます。
(2)相続人の所在の迅速な特定
全国に散らばった多数の相続人の住所を特定するには、戸籍の附票などの収集が不可欠です。弁護士は職務上の権限でこれらを迅速に取得し、行方不明者がいる場合には不在者財産管理人の選任申し立てなど、次の法的ステップへの検討も迅速に行うことができます。
(3)遺産分割調停・審判へのスムーズな移行
どれだけ丁寧に説明しても、数名は非協力的な人が残るものです。当初から弁護士がサポートしている場合、交渉から裁判所の手続(遺産分割調停)へスムーズに切り替えられます。最終的には遺産分割審判によって、反対者がいても強制的に分割を確定させることができます。
(4)使い込み疑惑などの紛争解決
「生前に長男が勝手に預金を引き出していた」といった疑いや主張に対しても、弁護士は金融機関調査等の必要な調査を行い、客観的な事実に基づいて紛争を鎮静化させることを検討します。
5.当事務所のサポート内容
当事務所では、遺産分割を含む相続手続全般について、豊富な取り扱い実績があります。
多数の相続人がいる案件についても、全体の状況を的確に分析した上、ご相談者様が取るべき最適な手続方針をご提案申し上げますので、是非お気軽にご相談ください。

千葉県千葉市出身
平成11年 千葉市立稲毛高等学校卒業
平成15年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成16年 司法試験合格
平成17年 最高裁判所司法修習生採用(第59期、大津修習)
平成18年 弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉県市川市の弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所
平成23年 法律事務所羅針盤開設に参加
平成29年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻(税法コース)修了
平成29年12月
~令和元年11月 総務省官民競争入札等監理委員会事務局政策調査官、同省公共サービス改革推進室政策調査官(併任)


