遺留分侵害額請求をされた方へ
1.遺留分とは
兄弟姉妹を除く法定相続人に保障される最低限度の相続分のことを遺留分と言います。
被相続人は、本来、自分の財産を自由に処分できるはずであり、相続関係に関わらず、生前贈与や遺言作成を通じて、特定の人に財産を譲ることができます。
しかし、被相続人の財産は相続人の生活保障の糧として活用されていた場合もありますし、被相続人の財産形成に相続人が何らかの貢献をしていたことも十分考えられます。
このような場合、被相続人の財産処分を被相続人の自由意思に完全に委ねてしまうことには不都合が生じることがあり得ます。
そこで、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護の両要請を調整するため、民法は、「被相続人は財産を自由に処分できる。ただし、相続人の最低限度の相続分すら侵害される場合は、相続人は権利行使を通じて最低限度の相続分を確保することができる」という制度を採用しました。
この制度が遺留分です。
2.遺留分侵害額請求とは
遺留分は遺留分侵害額請求権の行使により確保します。
遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害されている相続人が、遺留分を侵害している受遺者(遺贈を受けた人)、受贈者(生前贈与を受けた人)に対して遺留分に相当する金銭の支払いを請求する権利をいいます(民法1046条)。
遺留分を侵害されている相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することによって、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを受けることができます。
3.遺留分侵害額請求をされた際に確認すべきこと
(1)相手方に侵害を主張する権利があるのか確認する
遺留分侵害額請求権は全ての相続人が持つ権利ではなく、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
また、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人であっても、相続欠格や廃除等によって相続権を失った場合にはやはり遺留分は認められません。
そのため、遺留分侵害額請求をされた場合には、まずは相手方が遺留分を請求する正当な権利があるかどうかを確認する必要があります。
(2)遺留分侵害額請求の時効は過ぎていないか確認する
遺留分侵害額請求権は、請求者である相続人が相続開始及び遺留分侵害があることの双方を知ったときから1年以内に行使しない場合には時効により消滅します。
遺留分侵害があることを知ったときとは、典型的には、自身の遺留分を侵害する内容の遺言書の存在を知ったときなどです。
また、相続人が遺留分侵害があることを知らなかった場合であっても、相続開始後10年を経過した場合は、遺留分侵害額請求権は時効により消滅し、行使することはできません。
(3)遺留分の算定額が正しいか確認する
遺留分算定の基礎となる相続財産価額は、被相続人が相続開始時に有していた財産価格に、被相続人が相続開始前1年間(受贈者が相続人の場合は10年間)に贈与した財産の価格を加え、債務額(被相続人名義の借金など)を控除した金額となります。
この計算は相当複雑になることも多く、相手方が一定の金額を示して遺留分侵害額請求をしてきた場合であっても、必ずしもその金額が正しいとは限りません。
正しい計算を行ったところ、相手方の当初の請求額は過大請求であったというケースもよくあるため、遺留分の算定額が正しいかどうかは慎重に検討する必要があります。
疑問点や不明点がある場合は、できるだけ早期に専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
(4)相手方に特別受益・生前贈与がないか確認する
遺留分侵害額請求をしてきた相手方が、被相続人から相当額の生前贈与を受けていた場合、その贈与が特別受益に該当し、相手方が請求することができる金額が減額される可能性があります。
相手方が被相続人から生前贈与を受けている可能性がある場合は、金融機関から取引明細を取り寄せ、過去の取引履歴を調査したり、不動産登記の変動状況を調査したりするなどの方法により、相手方に特別受益がないか確認することが望ましい場合もあります。
4.遺留分侵害額請求をされた際の対応方法
(1)請求内容に納得できない場合(相手方の請求を争いたい場合)
相手方の請求内容に納得できない場合は、まずは相手方の請求のどこに納得できないのか、自分の考えを十分整理しましょう。
その結果、納得できない点が上記3の確認事項に該当する場合など、そもそも相手方の主張内容に問題があると思われる場合は、強気に減額を求めていって良い場合もあります。他方で、相手方の主張内容自体に問題があるわけではないけれど、感情的に相手方の言うとおりの金額は支払いたくないなどの場合は、そのような主張をすること自体が許されないわけではありませんが、主張の強弱には気を付けた方が良いかも知れません。
手続の流れとしては、相手方の主張を争う場合、まずは相手方と任意の交渉を行い、交渉で解決できない場合は調停手続へ、調停でも解決しない場合は訴訟手続へと進んでいきます。
訴訟まで争った結果、相手方の請求が全面的に認められてしまった場合は、遅延損害金が付加されるなど、支払負担がかえって重くなる場合もあるため、留意が必要です。
相手方の請求を争う場合は、自分の請求がどの程度正当なものであるか、どこを落としどころと考えるべきか、など様々な事情を考慮して慎重に対応する必要があるため、弁護士に相談することをお勧めします。
(2)請求内容に従う場合(相手方の請求を争わない場合)
相手方の請求内容が適切であると思われる場合などは、早期解決を目指すため、相手方の請求を争わず、相手方請求額の支払いにそのまま応じることも選択肢となります。
この場合であっても、相続財産の内容や相手方請求額によっては、早期一括払いが困難である場合もあるため、このような場合は、分割払いや支払期限の猶予を求めて交渉を行うことも考えられます。
実務上の利用例が多いわけではありませんが、裁判所に対して、遺留分侵害額請求の支払期限の許与を請求することもできるとされています(民法1047条5項)。
5.遺留分侵害額請求をされた際の対応について弁護士に相談するメリット
遺留分侵害額請求をされた場合は、相手方の請求内容が正当なものであるか、調停・訴訟で争った場合はどのような結論が見込まれるか、など請求を受けた方が置かれている権利関係の状況を正確に分析することが極めて重要となります。
この分析を間違ってしまうと、かえって見通しの厳しいポイントを過剰に争ってしまい、かえって多額の遅延損害金が加算されてしまったということも起こりえます。
このような分析には専門知識と豊富な経験が必要となるため、遺留分侵害額請求をされた場合は、できるだけ早く専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
6.当事務所のサポート内容ご相談ください。
当事務所では、遺留分侵害額請求権に関する分野を含む相続手続全般について豊富な取扱実績があります。
遺留分進学額請求を受けた場合には、ご相談者様の置かれた状況を的確に分析した上、ご相談者様のご意向も十分にヒアリングし、最適な手続方針をご提案申し上げますので、遺留分侵害額請求を受けてお悩みでしたら、是非お気軽にご相談ください。