遺留分の計算方法は?弁護士が解説
法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
「遺留分はどうやって計算すれば良いのでしょうか?」
といったご質問を受けるケースがよくあります。
遺留分を請求するには、自分に認められる遺留分侵害額を計算しなければなりません。
遺留分侵害額の計算方法は複雑で、「わからない」と思ってしまう方も多数おられます。
この記事では遺留分侵害額の計算方法を弁護士がわかりやすくお伝えします。
これから遺留分侵害額請求を行いたい方はぜひ参考にしてみてください。
遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限、認められる遺産相続割合です。
遺言が遺されたり不公平な贈与が行われたりすると、相続人であっても十分に遺産を受け取れない可能性があります。そういったケースでも、遺留分権利者には最低限「遺留分まで」は遺産を受け取ることができます。
相続人の「相続できるだろう」という期待を保護するために、一定の親しい相続人には遺留分が認められるのです。
ただし遺留分を請求しても、遺産そのものを受け取れるわけではありません。
遺留分侵害額という「お金」で清算することになります。つまり遺言や贈与で遺留分を侵害されたら、「遺留分侵害額請求」という金銭請求を行って金銭で遺産を取り戻すことになります。以上が遺留分の概要です。
遺留分が認められる相続人
遺留分はすべての相続人に認められるわけではありません。
遺留分が認められるのは、兄弟姉妹や甥姪以外の相続人です。
具体的には以下のような人に遺留分が認められます。
- 配偶者
- 子どもや孫などの直系卑属
- 親や祖父母などの直系尊属
上記のような人が遺言や贈与によって遺留分を侵害されたら、侵害者へ「遺留分侵害額請求」を行って遺留分侵害額を取り戻せます。
遺留分侵害額の計算方法
次に遺留分侵害額の計算方法をみてみましょう。
遺留分侵害額は、以下の4つのステップで計算できます。
- 遺産総額を明らかにする
- 贈与額を加算する
- 負債を差し引く
- 遺留分割合を掛け算する
民法では、遺留分を算定するための財産価格の計算方法について、以下のように規定されています。
民法第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
以下で遺留分侵害額請求をするときのそれぞれのステップについてみていきましょう。
STEP1 遺産総額を明らかにする
遺留分を計算するには、まずは遺産総額を明らかにしなければなりません。
どのような財産があるのか洗い出して、それぞれの財産を評価しましょう。たとえば以下のようなものが遺産になります。
- 預金、現金
- 株
- 車
- 不動産
- 知的財産権
遺産が不動産や株式、車などの場合、評価額は一律ではないので、遺留分権利者が「評価」しなければなりません。
不動産の場合、取引相場を確認したり公示地価や基準地価を参考にしたりして価額を定めましょう。なお相続税路線価を適用すると、取引相場の8割程度になります。固定資産評価額を用いると取引相場の7割程度の金額になるのが一般的です。そこで路線価や固定資産評価額を用いると、遺留分侵害額の金額が減ってしまう可能性もあるので、注意しましょう。
遺留分侵害額請求を行う際には、近隣の取引相場を参考にするか、不動産会社に査定を依頼して時価を確認するのが良いでしょう。
遺留分侵害額算定の基準時
遺留分侵害額を計算するときには、財産の評価時を決めなければなりません。たとえば不動産など財産の場合、遺産相続発生時と遺留分侵害額請求時で価額が変わるのが通常だからです。
遺留分侵害額請求の場合、財産の評価基準時は相続開始時になります。遺留分侵害額請求時ではないので、間違えないように注意しましょう。
たとえば相続開始示に2000万円の価値があり、その後値上がりして土地価格が2500万円になっても、遺留分侵害額の基礎となるのは2000万円です。反対に土地価格が値下がりして1500万円になっても、やはり遺留分侵害額の基礎となるのは2000万円になります。
STEP2 贈与額を加算する
次に贈与額を加算しなければなりません。
贈与額とは、被相続人から遺留分侵害者へ贈与された財産の金額です。
遺留分侵害額請求の対象になる贈与は以下のとおりです。
- 相続開始前の1年以内に行われた贈与(民法1044条1項第1文)
- 贈与の当事者双方が遺留分権利者に損害を与えると知って行われた贈与(同項第2文)
- 不相当な対価でなされた有償の処分で、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えると知って行われたもの (民法1045条2項)
- 相続開始前の10年以内に「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本」としてされた相続人に対する贈与(いわゆる特別受益。民法1044条3項)
基本的には「相続開始前1年間」に行われた贈与が遺留分侵害額の対象です。ただし当事者双方が遺留分侵害を知りながらあえて行った贈与については、それ以前のものであっても遺留分侵害額請求の対象になります。
また特別受益になる贈与も遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。ただしすべてではありません。特別受益になる贈与の場合「相続開始前10年以内」のものだけが遺留分侵害額請求の対象になります。それより古い贈与による特別受益分は省かれるので、間違えて計算に含めないように注意しましょう。
STEP3 負債を差し引く
被相続人に借金などの負債がある場合、遺留分侵害額からはその全額を差し引かなければなりません。具体的には以下のような負債を差し引きます。
- 借金
- 未払いの家賃
- 未払いの医療費
- 未払いの水道光熱費
- 未払いのスマホ代
- 未払いの税金や健康保険料
ただし葬儀費用は差し引けません。葬儀費用はあくまで相続人が負担するものであり、被相続人の負債ではないためです。
遺産分割の場合には葬儀代を差し引くのが一般的ですが、遺留分侵害額請求の場合には葬儀代の差し引きはしないので、間違えないように注意しましょう。
STEP4 遺留分割合を掛け算する
最後に相続人の遺留分割合を掛け算すると、各遺留分権利者の遺留分侵害額を計算できます。
遺留分侵害額の割合は以下のとおりです。
総体的遺留分
総体的遺留分とは、そのケースで認められる遺留分全体の割合です。
- 相続人が親などの直系尊属のみの場合…3分の1
- 相続人に配偶者や子どもなどの相続人が含まれる場合…2分の1
個別的遺留分
個別的遺留分とは、各遺留分権利者に認められる遺留分の割合です。
遺留分権利者が複数いる場合には、相対的遺留分に遺留分権利者の法定相続分を掛け算すると、個別的遺留分を計算できます。
以下ではパターンごとの遺留分割合の早見表をつけるので、遺留分計算したいときには参照してください。
【遺留分割合の早見表】
配偶者の遺留分 | 子どもの遺留分 | 親の遺留分 | |
配偶者のみ | 2分の1 | ||
配偶者と1人の子ども | 4分の1 | 4分の1 | |
配偶者と2人の子ども | 4分の1 | 8分の1ずつ | |
子どものみ | 2分の1 | ||
配偶者と片親 | 3分の1 | 6分の1 | |
配偶者と両親 | 3分の1 | 12分の1ずつ | |
片親のみ | 3分の1 | ||
両親 | 6分の1ずつ | ||
配偶者と兄弟姉妹 | 2分の1 |
兄弟姉妹には遺留分が認められないので、上記の表には含んでいまません。
遺留分計算の具体例
以下では遺留分計算の具体例をみてみましょう。
具体例1~長男へ全財産を相続させる遺言が遺されたケース~
遺産総額が1000万円、長男への贈与額が1000万円、借金が500万円、相続人は子ども3人のケース。長男に全額の遺産を相続させる遺言が遺されていたとしましょう。
この場合、まずは1000万円の遺産に贈与額の1000万円を足します。その後、借金の500万円を差し引き、金額は1500万円となります。
相続人は子ども3人なので、相対的遺留分は2分の1、個別的遺留分は6分の1になります。
よってそれぞれの子どもに認められる遺留分割合は1500万円×6分の1=250万円となります。
次男や三男は長男に対し、250万円ずつの遺留分侵害額請求ができます。
具体例2~愛人へすべての遺産が遺贈されたケース~
遺産総額が5000万円、負債が1400万円、相続人は配偶者と2人の子どもの場合をみてみましょう。愛人へ全財産を遺贈する遺言書が遺されていたとします。
この場合、遺産総額の5000万円から負債の1400万円を引き算し、遺留分のもととなる金額は3600万円になります。
配偶者の遺留分割合は4分の1、子どもたちそれぞれの遺留分割合は8分の1ずつになります。
よって配偶者は3600万円×4分の1=900万円、子どもたちそれぞれは3600万円×8分の1=450万円ずつの遺留分が認められます。
配偶者は愛人へ900万円、子どもたちは愛人へそれぞれ450万円の遺留分侵害額を請求できます。
具体例3~複数の相続人に特別受益が認められるケース~
遺産総額が4000万円、長男に対して500万円、次男に対して300万円の生前贈与が行われたケース。相続人は子ども3人(長男、次男、三男)で、全財産を長男に相続させる遺言があったとしましょう。
この場合、相続財産に特別受益となる贈与を足さねばならないので、4000万円+500万円+300万円=4800万円が遺留分のもととなる金額になります。
ここに子どもたちそれぞれの遺留分の割合を掛け算します。子どもたちの遺留分割合は6分の1ずつです。
すると、子どもたちには4800万円×6分の1=800万円ずつの遺留分が認められます。
ただし次男はすでに生前贈与で300万円を受け取っているので、300万円を差し引きしなければなりません。そこで次男が請求できる遺留分侵害額の金額は800万円-300万円=500万円となります。
一方、三男は贈与を受け取っていないので800万円の遺留分侵害額をそのまま請求できます。
以上のように、遺留分侵害額の計算方法は非常に複雑です。素人の方では間違ってしまうケースも多いでしょう。遺産の評価も適正に行う必要があります。
遺留分侵害額の計算に自信がない場合には、弁護士へ相談するようおすすめします。
遺留分侵害額は1年以内に請求しなければならない
遺留分侵害額請求を行う際には、遺産の調査を行って資産額や負債額を評価し、遺留分侵害額を計算して遺留分侵害者へ遺留分侵害額請求をしなければなりません。これらのステップには非常に手間がかかります。
それにもかかわらず、遺留分侵害額は「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」に行う必要があります。期限をすぎると時効によって遺留分侵害額請求権が失われてしまうので、遅れないように注意が必要です。
遺留分侵害額請求を早めに確実に行うには、専門家によるサポートが必要になるケースが多いでしょう。弁護士であれば遺留分侵害額請求の代理人となり、相手との交渉や調停、訴訟等にも対応できます。これから遺留分侵害額請求しようとしている方は、相続関係に力を入れている弁護士に相談してみてください。
千葉県市川市の法律事務所羅針盤では遺産相続案件に積極的に取り組んでおり、相続人さまのサポートに注力しています。遺留分を侵害されて納得できない方は、一度お気軽にご相談ください。