遺言無効とは?無効にならないためのポイントを弁護士が解説
遺言無効とは
(1)遺言の重要性
遺言は、被相続人の財産に関する意思表示です。
遺言がない場合には、相続財産の分配について、相続人間の遺産分割協議が必要となり、基本的には遺産分割協議がまとまらない限り、相続財産の分配等はできず、相続人同士の中が悪かったり、取得割合を巡る争いが生じたりすると、泥沼のような相続紛争に至ってしまうこともあります。
被相続人が適切な遺言を残した場合は、相続人の財産取得について、被相続人の意思を反映させることができ、また遺産分割協議も不要となるため、相続紛争を未然に防ぐことが可能となります。
(2)遺言無効について
このような重要性を有する遺言ですが、重要である分、遺言の作成には一定の形式や作成条件等が定められており、このような要式を欠いた場合には遺言は無効となってしまいます。
将来の相続紛争を予防するためにせっかく遺言を作成したのに、これが無効となってしまっては極めて残念な状況となってしまうため、遺言作成の際は、無効原因に十分注意する必要があります。
遺言が無効になる主な理由
遺言が無効となる主な理由は以下のとおりです。
・法的要件の不備
・精神的能力の欠如
・遺言内容の矛盾
・外部からの圧力や不正
(1)法的要件の不備
法律に定める方式に従わずに作成された遺言は無効となってしまいます(民法960条)。
これには以下のような例があります。
・自筆証書遺言の方式違反
自筆証書遺言は、遺言者がその全文(ただし財産目録については一部例外あり)、日付、氏名を自書し、押印をして作成しなければなりません(民法968条1項)。そのため、例えば、本文をパソコンで作成し、署名のみ自書した自筆証書遺言は無効となってしまいます。
・共同遺言の無効
2人以上の人が同じ書面で遺言を作成した場合、その遺言は全体が無効となってしまいます(民法975条)。そのため、例えば、夫婦で遺言を作成する場合、それぞれ別の書面で個別に遺言を作成する必要があります。
(2)精神的能力の欠如
遺言は未成年者でも作成することが可能ですが、満15歳に達していない人は遺言を作成することができません(民法961条)。
また遺言を作成するためには、遺言の内容を理解し、その結果を認識することができる能力(遺言能力)が必要であり、遺言能力を欠く状態で作成された遺言は無効となってしまいます(民法963条)。
この遺言能力は、作成時の状況に応じて個別に判断されるため、成年被後見人、被保佐人、被補助人などのいわゆる制限行為能力者であっても、作成時の遺言能力が認められる限りは遺言を作成することが可能です(ただし、成年被後見人が遺言を作成する場合は、医師2人以上の立会いが求められるなど、特別な条件が加わります(民法973条))。
(3)遺言内容の矛盾
遺言の作成通数には特に制限はなく、最初の遺言を作成した後で取得した財産についてのみ、新たな遺言で別途相続方法を指定することも可能です。
ただし、複数の遺言がある場合、新たな遺言の内容が前の遺言の内容と矛盾抵触する場合は、その抵触する部分について、前の遺言を撤回したものとみなされ(民法1023条1項)、事実上無効となってしまいます。
複数の遺言を作成する場合には、相互の遺言の矛盾抵触に十分留意する必要があります。
(4)外部からの圧力や不正
遺言についても民法総則の詐欺、錯誤、脅迫などの規定が適用されます(民法95条、96条)。
そのため、例えば、被相続人が脅迫されて作成してしまった遺言は取り消すことが可能です(ただし、遺言者が亡くなった後で遺言の効力を争うケースでは詐欺、錯誤、脅迫があったことを証明することが難しいケースが多いものと思われます)。
遺言の類型
遺言の基本類型には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3類型があります。また、やや特殊な遺言として、危急時遺言という類型もあります。
(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自署し、押印をすることによって作成する遺言です(民法968条1項)。
自筆証書遺言の最大のメリットは手続が簡便である点です。例えば、自宅にあるノートに必要事項を書けば遺言となるため、思い立ったらその場で直ちに遺言を作成することも可能です。
他方、自筆証書遺言のデメリットは、他の相続人による偽造や隠匿のリスクがあったり、必要事項の記入漏れによる無効リスクがあったりする点です。
また、自筆証書遺言については、原則として家庭裁判所での検認手続が必要となり、相続発生後、直ちに遺言に基づく相続手続を行うことができない点もデメリットとなります。
なお、自筆証書遺言を法務局に保管してもらう遺言書保管制度もあり、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言については検認手続が不要となります。
(2)公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が公証人の目の前で、遺言内容を口頭で話し、公証人がその内容を書き留めることによって作成する遺言です(民法969条)。
公正証書遺言のメリットは、法律専門家である公証人が作成するため、無効リスクが低いこと、公証役場で遺言書の原本が保管されるため偽造・隠匿のリスクもないことです。また、公正証書遺言については、家庭裁判所の検認手続も不要とされており、相続発生後、迅速に遺言に基づく相続手続を行うことが可能です。
他方、公正証書遺言のデメリットは、作成手続に際して公証人との打ち合わせなどが必要となるなど手続にある程度の時間や労力を要すること、所定の作成手数料が掛かることなどです。
(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が遺言の内容を自分で書き、自分で封をした状態で、公証人に提出するという手続によって作成する遺言です(民法970条)。
秘密証書遺言のメリットは、その名称のとおり遺言内容の秘密を確保することができる点です。
他方、秘密証書遺言のデメリットは、自筆証書遺言と同じく紛失や隠匿のリスクがあること、遺言内容に公証人が関わるわけではないため内容不備による無効リスクが残ること、家庭裁判所の検認手続が必要となることなどです。
現実的には、秘密証書遺言によってまで遺言内容を秘密にしたいという需要は限られており(自筆証書遺言や公正証書遺言でも遺言書を金庫で保管するなどの方法によれば相当程度秘密を保持することができます)、秘密証書遺言が作成されるケースはかなり少ないものとなっています。
(4)危急時遺言
遺言の基本3類型とは少し異なる分類として、危急時遺言などの特別方式の遺言があります。
危急時遺言とは、遺言者に死亡の危急が迫っており、基本3類型による遺言を作成している余裕がないような場合に、特別方式での作成が認められる遺言です(民法976条)。
危急時遺言を作成する際は、
①証人3人以上の立会い
②遺言者が証人の1人に遺言内容を口授すること
③口授を受けた証人がその内容を筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせるか閲覧させ、各証人がその筆記が正確であることを承認して署名押印すること(遺言者本人の署名押印は不要)
が必要となります。
特別方式の遺言には、その他、伝染病隔離者の遺言(民法977条)、在船者の遺言(民法978条)、船舶遭難者の遺言(民法979条)などがあります。
なお、危急時遺言などの特別方式の遺言は、あくまで基本3類型による遺言によって遺言を作成する余裕がない場合に、緊急措置として認められる遺言方式であるため、基本3類型(普通方式)での遺言作成が可能となった後、6か月間遺言者が生存した場合は失効するものとされています(民法983条)。
遺言作成時の注意点
せっかく作成した遺言が無効となってしまうことがないよう、上記のような無効原因には十分注意して遺言を作成する必要があります。
また、遺言の作成はその目的や各相続人との関係性などによって、どのような類型により、どのような内容の遺言を作成すべきかが異なります。
例えば、相続人間の関係性が良好で、仮に遺言が無くとも揉める可能性はほぼ無いものの、念のため平等に分けるとの遺言を作成したいということであれば、遺言の類型・内容は何でも良いでしょう。これに対し、相続紛争の発生が相当程度見込まれる場合(相続人間の関係性が悪い場合に限らず、相続財産の多くが不動産や自社株式など分割しにくいものである場合も含まれます)、安易に自筆証書遺言を作成してしまうと、自分に不利な遺言内容であることを知った相続人が遺言を隠してしまったり、また「被相続人がそのような遺言を書くはずがない。その遺言は偽造だ」など遺言無効を主張したりして、相続紛争がより複雑化してしまう場合もあります。紛争リスクが比較的高い場合は、公正証書遺言によることが基本的には安心です。
遺言類型の選択や内容の調整は高度の専門性を要する場合もあるので、弁護士等の法律専門家に相談することもお勧めです。
当事務所のサポート内容
当事務所では、多くの遺言作成サポートの実績があり、自筆証書遺言の作成アドバイス、公正証書遺言作成のための公証役場との連絡調整はもちろんのこと、遺言執行業務、遺留分関係事件、遺産分割事件などの関連業務についても豊富な取扱実績があります。
ご相談者様のご意向やご状況について、十分にヒアリングした上で、最適な遺言作成方針をご提案申し上げますので、遺言作成についてお悩みでしたら、是非お気軽にご相談ください。
千葉県千葉市出身
平成11年 千葉市立稲毛高等学校卒業
平成15年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成16年 司法試験合格
平成17年 最高裁判所司法修習生採用(第59期、大津修習)
平成18年 弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉県市川市の弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所
平成23年 法律事務所羅針盤開設に参加
平成29年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻(税法コース)修了
平成29年12月
~令和元年11月 総務省官民競争入札等監理委員会事務局政策調査官、同省公共サービス改革推進室政策調査官(併任)