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遺言の撤回はできる?弁護士が解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
今回は、一度作成した遺言書を撤回するにはどうすればよいか、遺言の撤回方法や関連する裁判例について説明していきます。

遺言の撤回は撤回できる?

遺言を作成した人を遺言者と言います。
民法上、遺言者は、いつでも遺言の全部または一部を撤回できるとされています(民法1022条)。
そのため、遺言者の生存中である限り、遺言者は、いつでも何度でも遺言書を撤回することができます。

遺言の撤回方法

遺言の方式による撤回

遺言書の撤回は「遺言の方式に従って」行う必要があります(民法1022条1項)。

具体的には、遺言者は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかの方式により、「〇年〇月〇日付けの遺言書(の第〇条)を撤回する」との遺言書を作成することにより、前遺言の撤回を撤回することができます。

なお、遺言の種類は問われないため、前の遺言と同一種類の遺言書による必要はありません。自筆証書遺言で公正証書遺言を撤回することも可能です。

撤回擬制

遺言の方式による遺言の撤回を行わなかった場合でも、次の場合には前の遺言の該当部分が撤回されたものとみなされます。

前後の遺言の内容が抵触する場合、その抵触する部分

例えば、前の遺言で、「自宅不動産は長男に相続させる」との遺言を残していたのに、後の遺言で、「自宅不動産は長女に相続させる」との遺言を残した場合は、その内容が矛盾抵触するため、前の遺言を明確に撤回していない場合でも、前の遺言の「自宅不動産は長男に相続させる」という部分は撤回されたことになります。

遺言の内容と遺言者の生前処分が抵触する場合、その抵触する部分

例えば、遺言で「高級時計Aは長女に相続させる」と記載していたのに、その後、遺言者がその高級時計Aを長男に生前贈与してしまった場合、遺言の内容と遺言者の生前処分が矛盾抵触することとなるため、遺言の「高級時計Aは長女に相続させる」という部分は撤回されたことになります。

裁判例

遺言者Aが自身の老後の面倒を見てもらうためにBと養子縁組をし、「遺産をBに譲る」との遺言書を作成したものの、その後、AとBの関係が悪化し、協議離縁により養子縁組を解消した場合、遺言は撤回されたものとみなされるとした裁判例があります(最高裁昭和56年11月13日判決)。

養子縁組の解消は身分行為であり、Bに遺産を遺贈することと論理的に両立しないわけではありませんが、遺言者の最終意思を重んずる観点から、遺言者の生前処分が前の遺言と両立させない趣旨のもとに行われたと評価できる場合には、遺言が撤回されたものとみるべきと考えられたものです。

民法1023条1項は、前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を取消したものとみなす旨定め、同条2項は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨定めているが、その法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもないから、同条2項にいう抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合のみにとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である。

最高裁昭和56年11月13日判決

遺言者が故意に遺言書または遺贈の目的物を破棄した場合、その破棄した部分

例えば、「高価な壺Aを妻に相続させる」と記載された遺言書がある場合、遺言者がその遺言書を意図的に破いて処分してしまった場合、遺言者は遺言の方式で撤回をしたわけではありませんが、遺言書は撤回されたものとされます。遺言者がその高価な壺Aを意図的に壊した場合も同様です。

裁判例

遺言者が遺言書の文面全体に赤色のボールペンで斜線を引いた場合に、遺言書の破棄に該当するかどうかが争われた裁判例があります。

原審の高等裁判所は斜線が引かれていても元の文字が判読できる状態である以上、遺言書の破棄には該当しないと判断しましたが、最高裁平成27年11月20日判決は、赤色のボールペンで文面全体に斜線を引く行為は、その行為の一般的な意味としては、遺言書全体を不要なものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当と判断し、遺言書の破棄に該当すると判断しました。

民法は、自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について、それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には、968条2項所定の厳格な方式を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で、それが遺言書の破棄に当たる場合には、遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすこととしている(1024条前段)。そして、前者は、遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから、遺言書の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば、民法968条2項所定の方式を具備していない限り、抹消としての効力を否定するという判断もあり得よう。ところが、本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。
以上によれば、本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって、本件遺言は、効力を有しない。

最高裁平成27年11月20日判決

遺言の撤回を撤回することはできる?

少しややこしい話ですが、遺言の撤回行為を撤回した場合に、遺言書の効力はどうなるか、という問題があります。

例えば、遺言者は、上記①のケースで、「自宅不動産は長男に相続させる」との遺言を残していたのに、後の遺言で「自宅不動産は長女に相続させる」との遺言を残した場合、前の遺言の「自宅不動産は長男に相続させる」という部分は撤回されたことになる、と説明しました。

ところが、その後、長女が遺言者にきつく当たったため、遺言者は、更に3通目の遺言を作成し、「2通目の遺言で自宅不動産を長女に相続させるとした部分は撤回する」と記載しました。

この場合、2通目の遺言は、3通目の遺言という方式により撤回されているため、効力を失うことは明らかですが、2通目の遺言で撤回されていた1通目の遺言の効力はどうなるでしょうか?

考え方としては、2通目の遺言が撤回された以上、1通目の遺言の効力が復活するという考えたかもありますが、民法はこの場合でも1通目の遺言の効力は復活しないと定めています(民法1025条)。

そのため、上の例では、1通目の「自宅不動産は長男に相続させる」との遺言も、2通目の「自宅不動産は長女に相続させる」との遺言も撤回されたままとなり、自宅不動産に関する遺言は存在しない状態となります。

もしかしたら、遺言者は、2通目の遺言を撤回したことによって、1通目の遺言を復活させたかったのかもしれませんが、それなら3通目の遺言で「自宅不動産を長女に遺言させるとした部分は撤回し、自宅不動産は長男に相続させる」と記載すれば足りるため、このような対処を行うことが必要となります。

ただし、例外として、遺言者が前の遺言の復活を希望することが明らかな場合は、前の遺言の効力が復活する場合があります(最高裁平成9年11月13日判決)。

そのため、上の例の場合で、3通目の遺言が「○年○月○日付け遺言(2通目の遺言)を撤回し、○年○月○日付け遺言(1通目の遺言)を有効とする」という内容であった場合、民法1025条の規定内容に関わらず、1通目の遺言の効力が復活することとなります。

遺言(以下「原遺言」という。)を遺言の方式に従って撤回した遺言者が、更に右撤回遺言を遺言の方式に従って撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解される。

最高裁平成9年11月13日決定

弁護士がお勧めする遺言書の撤回方法

遺言書のお勧め撤回方法

上で説明してきたとおり、遺言書の撤回は、一部撤回も可能ですし、はっきり撤回すると書かないまま別内容の遺言書を作成することにより撤回することも可能です。
しかし、遺言書を撤回する場合は、前の遺言を撤回する新遺言を作成し、その遺言書に撤回の理由を記載するようにしましょう。
その理由は以下のとおりです。

新遺言を作成しましょう

相続発生後、はっきり撤回されていない複数の遺言書が出てきた場合、法律上前の遺言が撤回されたことになるとしても、不利益を受ける相続人は通常納得せず、高確率で相続紛争が発生してしまいます。

また、一部撤回の場合は、複数の遺言書をすべて読まないと遺言書全体の内容が分かりませんし、相続人がまだ他にも遺言書があるのではないかと疑心暗鬼になってしまう場合もあります。

遺言は将来の相続紛争を予防するために作成するものですから、一見して分かりやすく、極めて簡潔に作成すべきものです。

そのため、遺言書を撤回する場合は、①前の遺言をすべて撤回すること、②新たに行う遺言の内容、を記載した新しい遺言書を必ず作成するようにしましょう。

遺言書の文案イメージは以下のとおりです。

 第1条 遺言者の○年○月○日付け自筆証書(公正証書)遺言を全部撤回する。
 第2条 遺言者は、次の不動産を妻Aに相続させる。
      …
 第3条 遺言者は、次の預貯金を長男Bに相続させる。
      …
 第4条 …

前の遺言の撤回理由を残しましょう

新たに作成する遺言書には、前の遺言を撤回した理由を書きましょう。
公正証書遺言の場合には、付言事項という遺言者の心情を記載することができます。

このような理由部分には法律上の効力はありませんが、前の遺言を撤回した理由がわからないままでは、相続人は、後の遺言で利益を受ける相続人などが無理やり新遺言を書かせたのではないか、不利な遺言書があることを知った相続人が新遺言を偽造したのではないか、など疑念を抱いてしまう場合があります。

このような相続人を納得させる声を残せるのは遺言者だけですので、どうして遺言書を作り直したのか、その真情を新遺言書に記載しておきましょう。

この記事の執筆者
法律事務所羅針盤 弁護士 本田 真郷
保有資格弁護士、中小企業診断士、マンション管理士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
専門分野相続
経歴

千葉県千葉市出身
平成11年 千葉市立稲毛高等学校卒業
平成15年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成16年 司法試験合格
平成17年 最高裁判所司法修習生採用(第59期、大津修習)
平成18年 弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉県市川市の弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所
平成23年 法律事務所羅針盤開設に参加
平成29年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻(税法コース)修了
平成29年12月
~令和元年11月 総務省官民競争入札等監理委員会事務局政策調査官、同省公共サービス改革推進室政策調査官(併任)

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